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「あ、あたしのこと鈍いって隆一は言うけど……隆一だって相当な
もんじゃないのっ。どうしてあたしがこんなに頑張ってお弁当作ってるのか、
隆一、考えたこともないじゃない!」


あたしは毎朝早起きして、実家のお弁当屋さんのお手伝いをしている。
とは言っても、勝手に学生限定のお弁当を、
それもたった七食作っているだけなんだけど。
自慢じゃないけど、毎日争奪戦なんだよ、あたしの特製弁当。えっへん。

「なんでアンタの作る弁当なんかが売れるのかねえ」

お母さんは不思議そうに首を傾げるけれど。

「でもな芹奈。隆一に嫌われたくなければ、それ、食わせないほうがいいぞ」

なんでお父さんまでそんな深刻な顔で言うのかなぁ。

「よし、できた!」

うん、今日の分のお弁当完成っ。

(そうだ。せっかくだから、涼音ちゃんにも食べさせてあげようかな。
あたしはこんなに家庭的なのよってところ、
ライバルにアピールしておくのも有効だよね!)

従姉妹だろうが一つ屋根の下で暮らしていようが、
あたしは負ける気はない。負けられない。
こうして毎日お弁当を作っているのだって、全部隆一のためなんだから。
アイツ、全然わかってないけれど。
……いつになったら気づいてくれるのかな、隆一は。

(はあぁ…)

あたしは鈍感な幼なじみに溜息をつきながら、家を出た。
いつものように家の前で待っていると、これまたいつものようにお隣に
(具体的に言うと29歩くらいのところに)住んでいる隆一が歩いてくる。
子供の頃からずっと変わらない、朝の登校風景。
これまでと違うのは、あたしたちの他にもう一人いるってことなんだけど。

(負けないんだから……隆一はあたしのものなんだから!)


あたしの長い長い一週間は、こんなふうに進んでいくのです。